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ユーザビリティ・コラム

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第10回 学習への適合性(Suitability for learning)

新しいことを1から覚えていくことはどのユーザーにとっても大変なことであり、また習得の差もある。
ユーザーがシステムの操作方法を学習する際にこれを支援し、また学習のための案内を与えていることが必要になる。
今回は「学習への適合性」について考えてみる。

1. ユーザーの記憶負担を少なくする

ユーザーの先行経験を活用することで、ユーザーが新たに覚えなくてはいけないことを少なくすると、操作に慣れるまでにかかる時間も少なくなる。

1.1 メタファの利用

メタファとは、ものを何かに例えて表現することである。ユーザーが慣れ親しんでいる様々な経験を利用することで、ある操作に対して効果的な理解を促す。インターネットショッピングの場合、ユーザーがスーパーなどで買い物をするときの行為を利用している(図1図2)。サインインから確認までの操作を、商品を選び、買い物かごにその商品を入れ、レジへ持っていき精算するという流れと結びつけている。

図-1 日常の買い物

図-1 日常の買い物

図-2 インターネットショッピングでの購入手続きの流れ

図-2 インターネットショッピングでの購入手続きの流れ


1.2ポピュレーションステレオタイプ(Population Stereotype)

世の中の共通になっている操作の常識、行為や認識の傾向を言う(国や文化によって異なる場合もある)。例えば音量調節(図3)の場合、左に動かすと小さくなり右に動かすと大きくなるという操作は共通の認識であると言える。このようなスライド式つまみは電気の明るさやガスコンロの火力など、多く用いられており、右は値が増え左は値が減るという操作に自然に導くことができる。

図-3

図-3 音量調節

1.3 一貫性/標準化

人間には、新しい環境に適応する「流動性知能」と、経験や知識を総合的に活用する「結晶性知能」がある。特に高齢者層の学習支援のためには、過去の経験・知識・前例などの先行経験を基に判断・理解するため、すでに習得した知識の活用が可能なように製品を設計することは学習支援上重要な要素である。


ある製品で習得した知識を他の製品でもそのまま応用できれば、ユーザーは効率的に操作を学習することができる(第8回「一貫性」参照)。例えば複写機の場合(図4)、基本的なボタンであるスタート・ストップ・リセットのレイアウト、ボタン名称の色などが統一されている※1。原稿をセットして緑色のボタンを押すということを覚えれば、私たちはどのコンビニエンスストアへ行っても複写機を操作することができる。他にオーディオやビデオなどのコントロールボタンも挙げられる(図5)。

※1CRXプロジェクト ユーザーインターフェース ガイドライン

図-4 複写機の操作パネル

図-4 複写機の操作パネル

図-5 再生コントロールボタン

図-5 再生コントロールボタン


1.4 再認(recognition)と再生(recall)

「再生」とは記憶を思い出すこと、「再認」とは以前に経験したこと・情報を再び知覚したときに、それを識別することである。人間の認知特性として、情報を覚えておくことは難しいが、一度知覚した情報の識別はつきやすい。認知心理学の記憶研究では、「再生」は年代間の差が大きく、高齢層になるほど能力は低下するが、「再認」能力は年代間の差はほとんど見られないことが知られている。


フォントの設定は数多い選択肢があるため、フォントの名前とスタイルを合致させて覚えることは難しい。フォントがそのスタイルで表示されていればユーザーはフォント種類をすべて覚えるという負担はなくなる。よく使うフォント種類も、選択項目を見れば思い出す手がかりとなり、ユーザーの記憶負荷も減る。

図-6 フォント種類の選択

図-6 フォント種類の選択

2. 習得のしやすさ

操作が簡潔で覚えやすいことはもちろんのこと、個々のユーザーのレベルに応じて学習プロセスを支援する工夫(操作手順や機能内容が学習できるようになっていること)も習得のしやすさにつながる。

2.1 その人のレベルに合った学習(1)

メニューを例に挙げる。学習初期段階では、ドロップダウンメニュー(図7)からメニュー項目を選択する。その後、習熟が進むに連れ、各メニュー項目の左側に表示されたアイコンを覚えるようになり、ツールバー上に表示されたそれらのアイコン(図8)を利用するようになる。さらに操作に慣れてくると右側に表示されたショートカットキーを覚えるというように、徐々に操作のレベルを上げて覚えていくことができる。

図-7 ドロップダウンメニュー

図-7 ドロップダウンメニュー

図-7 ツールバー

図-8 ツールバー


2.2 その人のレベルに合った学習(1)

図9は設定方法をユーザーに教えている画面である。ヘルプ画面から“教えて! :TCP/IPを設定する。”(1)をクリックすると操作方法を説明したウィンドウ(2)と実際の設定ウィンドウ(3)が出てくる。操作方法を読み進めていくと設定画面上にはその箇所を赤枠で囲むアニメーションが流れ、同時にユーザーもその設定画面で操作を進めていくことができるようになっている。

図-9 ヘルプの例

図-9 ヘルプの例

3. 支援の対策

習得しにくい機能や頻繁に使わない機能など、初めの段階ですべてを学習しなくても説明を見ながら使い始められる。操作や機能内容について徐々に記憶を定着させるような配慮が必要となる。

3.1 ツールヒント/ポップアップウィンドウ

ツールヒントとは、マウスカーソルをツールバー上に置くとその機能の名前を表示するものである(図10)。ポップアップウィンドウとは、吹き出しを使って操作や機能の情報を表示するものである(図11)。アイコンの意味がわからない場合や忘れてしまった場合にその機能の名称や解説を表示させることができる。その都度、機能について確認することができる。

図-10 ツールヒントの例

図-10 ツールヒントの例

図-11 ポップアップウィンドウの例

図-11 ポップアップウィンドウの例


3.2 チュートリアル/レッスン

初めて製品を使用する場合や、使い方が分からない機能について学ぶことができる。チュートリアルの内容にそって1つ1つ着実に操作方法を学び、使い方を習得できるようになる。図12-1はムービーの作成に必要なすべての機能について簡単に説明している。10個のレッスンが用意されており、ユーザーは各レッスンのステップの通り実習していくことで短い時間で基礎学習ができるように工夫されている(図12-2)。

図-12-1 ツールヒントの例

図-12-1 レッスンの例

図-12-2 レッスンの例

図-12-2 レッスンの例
左側はステップにそってユーザーが実践したもの。

3.3 試してみることができる

人間は試行錯誤(Trial and error)の過程で様々な知識を習得していく。ユーザーが安心して試行錯誤できるように許容されているインターフェースは、ユーザーの理解・応用力を促進する要素となる。図13はそれぞれの機能がどんな仕上がりになるのかを設定画面の中で自由に試しながら検討することができるので、その仕上がりを見ながら学習することができる。

図-13

図-13 文字

以下にガイドラインを記載する。

デザイン・設計ガイドライン

  • (1)ユーザーの記憶負担を最小にする

    • ユーザーが覚えなくてはならない操作手順や機能の内容は最小限にしておくこと。
    • 簡潔な操作・機能ツリーになっていること。
  • (2)習得のしやすさ

    • 操作手順や機能の内容はユーザーが習得しやすいように簡潔になっていること。
  • (3)学習支援の対策

    • 操作手順や機能の内容を理解するために、システム側で手がかりやウィザード、チュートリアルを用意していること。